リアルタイム推論と現場連動が拓く、次世代DX
GPU・HBM・先端パッケージの高密度化で、TIM・IHS・直接液冷・マイクロ流路が重要になる背景

AI半導体の高性能化に伴い、熱対策の考え方が変わり始めています。
従来のデータセンターでは、サーバールーム全体へ冷気を送り、ラックやサーバー内部のファンを使って発熱を処理する方法が中心でした。その後、高密度化への対応として、コールドプレートをGPUやCPUへ取り付けるDirect Liquid Coolingが広がり、現在ではNVIDIAのGB200 NVL72のように、ラックスケールAIシステムそのものが液冷を前提とする例も現れています。
ただし、AI半導体の発熱密度がさらに上がると、サーバー側の冷却設備を高性能化するだけでは十分でない可能性があります。チップで発生した熱が冷媒へ到達するまでには、シリコン、パッケージ、TIM、IHS、コールドプレートなど複数の層が存在し、その途中に熱抵抗が残るためです。
そのため、次世代の熱対策では「データセンター全体をどう冷やすか」だけでなく、「発生した熱をチップからどれだけ早く取り出すか」が重要になります。
Microsoftは2025年、シリコンの熱源に近い位置へ冷媒を届けるマイクロ流体冷却技術を公表しました。TSMCも、シリコン構造を利用した直接水冷技術について研究成果を公開しています。これらは、冷却技術の重点がサーバーやラックから、パッケージ、シリコン裏面、さらにチップ内部に近い領域へ移りつつあることを示しています。
もっとも、これはサーバー側冷却が不要になるという意味ではありません。今後は、施設冷却、CDU、コールドプレート、TIM、IHS、チップ近傍冷却を階層的に組み合わせる方向が重要になります。
AI半導体の熱問題を考えるとき、消費電力の増加だけを見ると本質を捉えにくくなります。
重要なのは、限られた面積からどれだけの熱を逃がさなければならないかです。
AIアクセラレータでは、大規模な演算処理を行うロジックダイに加え、HBMや高速I/Oが近接して配置されます。先端パッケージでは、複数のダイやメモリを高密度に接続するため、パッケージ全体の中で発熱源が複雑に分布します。
このような構造では、パッケージ全体の平均温度が許容範囲に収まっていても、一部にホットスポットが生じる可能性があります。冷却設備全体の能力を上げても、局所的な熱がチップ表面から十分に抜けなければ、温度上昇の原因は残ります。
TSMCが公開する直接シリコン水冷の研究では、シリコンリッド内に冷却構造を形成し、冷却水とデバイスの間の熱抵抗を小さくする考え方が示されています。同社は、単一SoCで2,600W超、4.8W/mm²相当の条件に対する実証結果を紹介しており、高電力・高電力密度への対応がチップ近傍冷却の主要テーマになっていることが分かります。
つまり、AI半導体の高性能化では「冷却能力を増やす」だけでなく、「熱源と冷媒の距離を短くする」という方向が重要になります。
Direct Liquid Coolingは、空冷と比べて発熱源の近くへ液体を持っていける点に大きな強みがあります。
GPUやCPUの上部へコールドプレートを配置し、内部へ冷媒を流すことで、空気より効率的に熱を運ぶことができます。高密度AIラックでは、この方式が現実的な選択肢として採用されています。NVIDIAもGB200 NVL72で直接液冷を利用し、ラックあたりの高い冷却要求へ対応しています。
一方で、コールドプレートを取り付ければ、チップで発生した熱がそのまま冷媒へ移るわけではありません。
一般的な熱経路では、発熱源からパッケージ側の界面材料、IHSやヒートスプレッダ、さらに別の界面を経てコールドプレートへ熱が移ります。実際の構造は製品によって異なりますが、複数の材料と界面を通過する以上、それぞれの熱抵抗が全体性能へ影響します。
このため、冷却設備側を高性能化しても、TIMの界面熱抵抗やヒートスプレッダの熱拡散性能がボトルネックになる可能性があります。
AI半導体の熱対策では、コールドプレートの性能だけを比較するのではなく、チップから冷媒までの熱経路全体を見る必要があります。
熱対策がチップ近傍へ移るほど、TIMやIHSの重要性は高まります。
TIMは、異なる部材の接触面に存在する微細な隙間を埋め、界面熱抵抗を抑える役割を持ちます。IHSやヒートスプレッダは、局所的に発生した熱を広い面積へ拡散し、次の冷却部材へ渡します。
発熱密度が比較的低い領域では、これらの材料に多少の性能差があっても、システム全体として吸収できる場合があります。しかし、高熱流束化が進むほど、界面で生じる温度差や局所的な熱集中の影響が大きくなります。
その結果、TIMでは単純な熱伝導率だけでなく、実際の厚み、濡れ性、接触圧、ポンプアウト、長期信頼性が重要になります。IHSやヒートスプレッダでは、面内方向への熱拡散、熱膨張差、平坦性、加工精度、接合方法などを含めて評価する必要があります。
この変化は、AI半導体向け熱材料のサプライヤー探索にも影響します。
「高熱伝導材料を持っている会社」を探すだけでは不十分であり、対象パッケージのどの位置で使うのか、既存構造とどう接続するのか、サンプルをどの条件で評価するのかまで整理しなければ、採用検討は進みにくくなります。
AI半導体では、演算チップ単体の冷却だけを考えても十分ではありません。
2.5Dパッケージでは、ロジックダイとHBMなど複数の要素が近接して配置されます。3D化が進めば、さらに複数のダイが垂直方向へ重なる可能性があり、内部の熱を外部へ逃がす経路は複雑になります。
このような構造では、最も大きな発熱源だけを冷却しても、周辺部材の温度制約が残る可能性があります。また、複数の熱源が近接することで、一つの部材から出た熱が別の部材の温度へ影響することも考える必要があります。
imecは高性能チップ向けにシリコンベースのマイクロチャネルヒートシンクを研究し、チップに近接した冷却構造によって低い総熱抵抗を目指してきました。こうした研究は、先端パッケージの高密度化に伴い、従来より発熱源へ近い位置で熱を回収する必要性が高まっていることを示しています。
今後の熱設計では、GPU、HBM、インターポーザ、TIM、IHSを個別に見るのではなく、パッケージ全体の熱経路として捉えることが重要になります。
チップ近傍冷却の代表的な方向性の一つが、マイクロ流路です。
従来のコールドプレートでは、冷媒はチップ上部に配置された冷却部材の内部を流れます。一方、マイクロ流路冷却では、シリコンやチップ近傍構造に微細な流路を形成し、発熱源により近い位置へ冷媒を届けます。
Microsoftは2025年に公表した技術で、チップ裏面に微細な流路を形成し、冷却液をシリコン内部の熱源近傍へ届けるアプローチを示しました。同社は自社試験において、従来の高度なコールドプレート方式と比較して最大3倍の冷却性能を確認したと説明しています。
重要なのは、単に新しい冷却装置が登場したということではありません。
従来はサーバー側に設置されていた冷却機能の一部が、半導体設計やパッケージ設計と一体化し始めていることです。
冷却流路をシリコン近傍へ持ち込む場合、流路形成、封止、冷媒管理、圧力損失、漏れ、材料適合性、製造歩留まりなど、新しい評価項目が増えます。したがって、熱対策は機械設備だけのテーマではなく、半導体プロセス、パッケージ、材料、流体設計を横断するテーマになります。
さらに発熱源へ近づく考え方として、直接シリコン水冷があります。
TSMCが公開する研究では、シリコンリッドを利用し、内部に冷却構造を形成して水を流す方式が提案されています。熱源と冷却水の間に存在する熱抵抗を小さくすることで、高電力・高電力密度へ対応する考え方です。
この方向性が重要なのは、従来の熱対策で前提となっていた積層構造を見直す可能性があるからです。
チップからTIMへ熱を渡し、IHSで広げ、さらにコールドプレートへ移すという経路では、それぞれの界面が設計対象になります。一方、冷媒をシリコンへ近づけることができれば、熱経路の一部を短縮できる可能性があります。
ただし、熱性能が高いことと量産採用できることは別です。
半導体近傍へ液体を導入するほど、製造プロセス、接合信頼性、漏れ、腐食、圧力条件、長期耐久性、保守方法などの要求は厳しくなります。実際の採用では、冷却性能だけでなく、半導体パッケージとして安定して製造・評価できるかが重要になります。
チップ近傍冷却が進むと、熱対策材料の役割も変わります。
従来のサーバー冷却では、ヒートシンク、ファン、空調設備など、比較的大きな単位で性能を比較できました。しかし、チップ近傍では、わずかな厚み差、界面状態、表面粗さ、材料反応、熱膨張差が性能や信頼性へ影響します。
たとえば液体金属TIMでは、高い熱性能が期待される一方で、接触材料との反応、腐食、濡れ性、電気伝導性、長期安定性を確認する必要があります。高熱伝導ヒートスプレッダでは、熱伝導率だけでなく、加工性、接合性、熱膨張係数、量産供給能力が問題になります。
マイクロ流路や直接シリコン冷却では、さらに冷媒、シール、接合、微細加工が関係します。
このため、次世代熱対策では「最も高性能な材料を選ぶ」という考え方だけでは進めにくくなります。対象構造に適合し、評価可能で、量産工程へ接続できる候補を探す必要があります。
AI半導体の熱対策がチップ近傍へ移ると、供給元探索の方法も変わります。
コールドプレートであれば、冷却部材メーカーを中心に調べることができます。しかし、TIM、IHS、ベーパーチャンバー、ダイヤモンド系熱拡散材料、マイクロ流路、直接シリコン冷却まで対象を広げると、関係する企業や研究機関は複数の産業領域に分散します。
材料メーカー
半導体パッケージ企業
MEMS・微細加工企業
接合技術企業
冷却部材メーカー
流体制御企業
研究開発型スタートアップ
このように供給側が分かれるため、単純な「AI半導体冷却メーカー一覧」では十分な候補探索ができません。
まず、どの熱抵抗を下げたいのか、どの位置へ新しい材料や冷却構造を入れたいのかを整理し、そのうえで候補技術と供給元を探す必要があります。
特に先端材料では、カタログ製品として完成していない場合もあります。標準品の購入ではなく、用途説明、NDA、技術面談、サンプル仕様の調整を経て評価が始まるケースも考えられます。
そのため、供給元探索は企業リスト作成ではなく、評価へ進める候補を絞り込む作業になります。
AI半導体の高性能化によって、熱対策の重点は確かにチップへ近づいています。
ただし、施設冷却やサーバー側冷却が不要になるわけではありません。
チップ近傍で効率よく熱を回収しても、その熱は最終的にサーバー、ラック、CDU、施設側冷却設備を通じて外部へ放出する必要があります。NVIDIAの高密度AIラックが直接液冷を採用している一方、MicrosoftやTSMCがさらにシリコン近傍の冷却技術を開発していることは、冷却が一つの方式へ置き換わるのではなく、複数階層へ広がっていることを示しています。
今後のAI半導体では、
施設側で熱を処理する
CDUで液体回路を管理する
コールドプレートでパッケージから熱を受け取る
TIMで界面熱抵抗を抑える
IHSで局所熱を拡散する
必要に応じて冷媒をシリコン近傍へ持ち込む
という複数階層の熱設計が重要になります。
この変化によって、データセンター冷却と半導体パッケージ熱設計の境界は、以前より近づいていくと考えられます。
株式会社Asset Marsでは、AI半導体・先端パッケージ向けの熱対策について、技術動向調査、供給元探索、候補比較、サンプル評価準備を支援しています。
AI半導体の熱対策では、コールドプレートだけでなく、TIM、IHS、ヒートスプレッダ、ベーパーチャンバー、高熱伝導材料、マイクロ流路など、複数の材料・部材・技術を横断して確認する必要があります。
当社では、対象となる熱課題や使用位置を整理したうえで、国内外の候補技術や供給元を調査し、用途適合性、供給条件、サンプル対応、評価上の論点を比較します。海外サプライヤーについても、単に企業名を紹介するのではなく、対象用途への適合可能性や初期評価へ進める条件を確認し、候補を絞り込む支援を行います。
当社の支援は、特定材料や冷却技術の採用、認定取得、量産供給、熱性能を保証するものではありません。あくまで初期段階において、どの熱抵抗や構造を課題として見るべきか、どの技術・供給元を比較すべきか、どの条件でサンプル評価へ進めるかを整理し、評価着手までの負担を減らすための支援です。